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FEATURE

可愛さと怖さに満ちた、次なるワンダーランド へ 佐藤健寿 写真家YOU ARE CULTURE SCHOOL. Vol.7 

2018.07.15
YAC SCHOOL

旬のカルチャーを牽引する各界からのゲストが、見識豊かなレクチャーを繰り広げるトークイベント『YOU ARE CULTURE SCHOOL』。 『Adam et Ropé Le Magasin』 (アダムエロペ ル マガザン)との2度目のコラボが実現した、写真家の佐藤健寿(さとうけんじ)氏を迎えた今回は、さらなる刺激に満ちたセッションとなりました。「PLAY MORE!〜毎日をもっと遊ぼう!〜」をテーマに、ふだんの日々をもっとおもしろく、特別な日をもっとおしゃれに盛り上げる「遊び心」のある雑貨をセレクトしている『Adam et Ropé Le Magasin』。世界中の、一見奇妙な文化を撮り続け、TVや出版物でも話題をさらっている佐藤健寿氏との、新たなワンダーランドへの旅が始まります。

ワールドカップの開催国としても大きな注目を集めた国、 ロシア。この広大な国と旧ソ連の東欧地域の美しくも奇妙な姿を、佐藤氏が写し撮りました。今回、アーティスティックかつユーモラスなジンとして発売された『Trip To Wonderland』は、『Adam et Ropé Le Magasin』のためだけの特別編集。このオリジナル写真集の発売を記念して、佐藤氏の厳選ショットをTシャツやトートバッグなどにデザインした、レアなグッズも発売されました。知っているようで知らない、謎に包まれたロシアとその周辺地域の姿と撮影秘話を、佐藤氏が写真とトークで解き明かします。

一年ぶりの『Trip To Wonderland』。日本から世界へとスケールアップ。

フォトグラファーの佐藤です。『Adam et Ropé Le Magasin』とのコラボは一年ぶり、二回目ですが、トークショーは緊張するので(笑)、今回は朝日新聞出版の谷野さんに、聴き手として来ていただきました。今年、僕は『THE ISLAND 軍艦島』という写真集を出したのですが、谷野さんはその担当編集でもあります。一年前に『Adam et Ropé Le Magasin』とコラボした時は、国内十数箇所のおもしろいスポットをまとめた、日本版の 『Trip To Wonderland』という小冊子を作りましたが、これが思いのほか出来が良すぎて(笑)。ショップで買い物をした人に、うっかり無料でプレゼントしてしまったのですが(笑)、今回は海外へ目を向けて、もっとスケールアップして一冊の本にまとめ、販売もすることになりました。

今回の写真集のテーマは、”Trip to Wonderland Russia and Eastern Europe Edition”、ロシアと東欧です。W 杯の開催などで注目を集めたロシアですが、実はロシアだけで一冊の本を作るというのは、かなり大変。おもしろい被写体がある地域だけれど、やはり移動が大変で、撮影の制約も多い。今回は時間的な制約もあり、もともと旧ソ連だった地域、ブルガリアなど旧衛星国と言われていたエリアのおもしろいものを集めて一 冊にしよう、ということになりました。表紙は、北極圏の境目である北緯 66 度上にある世界唯一の街・ネネツの人たちです。民族衣装もすごく可愛いですよね。知られざる多民族国家である、ロシアという国を象徴するような表紙になったと 思います。

巨大マトリョーシカがそびえ立つ、ワンダーな光景。

今回まとめたブックレットの中から、いくつか紹介していきます。この写真(左)は、ギネス的には世界最大となっている、巨大なマトリョーシカ。といっても中から小さいのが 出てくるわけではなく(笑)、ホテルなんです。『Adam et Ropé Le Magasin』的な世界観にぴったりなんじゃないかと、僕は思うんですが...。このホテルは、ロシアとの国境にほど近い、中国の満州里市というところにあります。 内モンゴル自治区、ロシア、中国と、国境が接しているようなエリアです。ロシアからの観光客も多くて、ロシア風の建築物もたくさんあるのですが、このホテルは去年の8月にオープンしました。

正直言って、中国には変な建築がいっぱいあります(笑)。 例えばこれ(写真右)は、北京にあるホテルで、世界最大の " 人型 " の建造物。僕が以前行った時は泊まれたのですが、今はもう営業停止になっています。中国ってとてつもないお金を持っている人がいるので、彼らが本気になった時は、もう、ものすごいものを作るんです。日本人にはとても想像がつかないような。


期待を裏切る完成度。どこを見ても、可愛さに満ちていた!

マトリョーシカホテルも、まあそういった珍スポット的なものだと思って(笑)行ったのですが、それが、いい意味で期待を裏切られました。中も外も、 ものすごく可愛いんです。アメニティも、家具やシャンデリアもすべてマトリョーシカモチーフ。なんかこれはもう、珍スポットとか、そういう話じゃないな、と(笑)。北京の人型ホテルの時はチープで笑えたし、 おもしろく撮っていたんですが、マトリョーシカホテル に至っては、これだけエンターテインメント性の高い建物を、これほど何もない場所に作ってしまうということに驚きました。

土地の神が息づく、懐かしい光景。ブルガリアの祭り「クケリ」。

続いて、ブルガリアのソフィアで、クケリというお祭りに行ってきました。日本の『なまはげ』のような、仮装する文化です。東欧などにはよくあるんですが、キリスト教文化が 入ってくる以前の、昔からいた土地の神様のお祭り。土着の神を、キリスト教が上書きする際に、デビルとか、鬼とか呼ぶようになることは多いです。実はサンタクロースもそういう存在だったと言われていたりしますね。 クケリはお祭り自体もなまはげによく似ていて、5人一組で魔除けの鉦をつけて踊り、悪いことをしている子はいないか、と練り歩く。これが可愛いんです(笑)。一時期は勝手気ままな仮装も多かったようなのですが、最近は自由思想の反動で、以前のクケリの姿を守ろう、という機運が高まっているようです。同様にヨーロッパ全体でも、キリスト教以前の本当の文化を取り戻そう、その国のコアなカルチャーを復活させよう、という大きな動きがあるようです。

今回、お土産を買ってきました。グッズをお買い上げいただいた方に、抽選でプレゼントするのですが、これは本当にレアなクケリ人形です。お土産屋さんに売っているのではなくて、クケリの期間中に、おばあちゃんが屋台を出して売っていたんですが、ぜんぜん売れていなくて(笑)。僕が一人で大人買いしました。ツノがポイントで可愛いのですが、クケリもなまはげも、いわゆる来訪神と呼ばれ、異界から訪れる神として信仰されている、 非常に興味深いものです。

宇宙飛行士記念博物館には、可愛い話がいっぱい。

ロシアで撮影していると、本当に重苦しいものが多くて。20年くらい引きこもっていた男が一人で作った謎の大量の彫刻とか (笑)。そういうのはお勧めしませんが、モスクワに行ったらぜひ行っていただきたいのが、宇宙飛行士記念博物館です。ロシアの宇宙開発秘話って、"いい話""可愛い話" がたくさん転がっていて。例えば僕が大好きなエピソードの一つに、宇宙ロケットの鍵、っていうのがあるんです。この写真(左)が宇宙ロケットの鍵なのですが、 本当は、こんなもの絶対に必要ないはず(笑)。誰が宇宙ロケットを盗むんだ、っていうことです(笑)。それでも博物館にちゃ んと展示されていて、形もすごく可愛いですよね。

この写真(右)は、カザフスタンのバイコヌール宇宙基地へ、ロケットの打ち上げを見に行った時のもの。日本人宇宙飛行士の大西さんもいます。ここでは現在でも、打ち上げの時に宇宙飛行士を先導するのはロシア正教の神父さんだったりして、科学的なのか非科学的なのかわからない感じです(笑)。前回のトークショーの時も、 宇宙ロケットの発射シーンは、一生に一回は見るといいと思う、 とお話しましたが、このバイコヌール宇宙基地は、発射地点から1.5km の至近距離で見学できて、しかも同じ地平上で見られるので、ものすごい振動と迫力が味わえます。なかなか行きにくい場所ではありますが、あそこまで至近距離で打ち上げを見られる基地は、世界中探してもあまりないんです。例えば種子島の宇宙センターだと、見学場所は発射地点から3km離れていて、しかも高台から見下ろす形になっているので、バイコヌールほどの迫力は感じられません。

未だ慣れることのない怖い体験も、廃墟にはつきもの。

ブルガリアにある巨大な廃墟、旧共産党ホールのことは TV番組『クレイジージャーニー』などいろいろなところでお話していますが、先月もう一回行ってみたところ、前回あった小さな穴が封鎖されてもう中には入れなくなっていました。今はこの廃墟に来る人が増えすぎてしまったみたいで。最近では、この建物の前でコンサートが開かれたりしたそうで、今後はそういう風に転用していく話もあるみたいです。日本の軍艦島 も、今風化を食い止めるための工事をしていたりします。廃墟を保持しようとする、ある意味矛盾した行為には、賛否両論あるようです。

ラトビアにある、旧ソ連の兵隊が暮らしていた兵舎の廃墟にも行きましたが、ここはめちゃくちゃ怖かったです。地下の防空壕のようなところに入って写真を撮ったのですが、中は真っ暗で、奥でずっと何か物音がしていました。幽霊とかそういうものよりも、野犬がいたらどうしようとか、やばい人がいたらどうしようって。その時は一人で行っていたので、余計に怖かったですね。廃墟巡りをしていると、本当に途方に暮れることがあるんです。「どうしよう......」って(笑)。これ以上進まないほうがいいんじゃないか、と。でもここまでわざわざ来たのに撮りに行かなかったら、なんだかバカみたいだし、と思ったり(笑)。こういう活動をしていると、廃墟に慣れているんじゃないか、と誤解されるのですが、いまだに毎回、怖い思いはしています。いろいろなスポットを紹介すると、後日見てくれた人から「行ってきました」という報告をいただいたりするのですが、くれぐれも、リスクがあることを理解していただくようお願いします。

本日はありがとうございました。

佐藤健寿
武蔵野美術大学卒。フォトグラファー。世界各地の“奇妙なもの”を対象に、博物学的・美学的視点から撮影・執筆。写真集『奇界遺産』『奇界遺産2』(エクスナレッジ)は異例のベストセラーに。 著書に『世界の廃墟』(飛鳥新社)、『空飛ぶ円盤が墜落した町へ』『ヒマラヤに雪男を探す』『諸星大二郎 マッドメンの世界』(河出書房新社)など。
近刊は米デジタルグローブ社と共同制作した、日本初の人工衛星写真集『SATELLITE』(朝日新聞出版社)、『奇界紀行』(角川学芸出版)、『TRANSIT 佐藤健寿特別編集号~美しき世界の不思議~』(講談社)など。NHKラジオ第1「ラジオアドベンチャー奇界遺産」、テレビ朝日「タモリ倶楽部」、TBS系「クレイジージャーニー」、NHK「ニッポンのジレンマ」ほかテレビ・ラジオ・雑誌への出演歴多数。トヨタ・エスティマの「Sense of Wonder」キャンペーンの監修など幅広く活動中。

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