毎回カルチャーの牽引者たちをゲストに招き、刺激的なレクチャーを繰り広げるトークイベント「YOU ARE CULTURE SCHOOL.」。 第四回目は、「PLAY MORE!~毎日をもっと遊ぼう!~」をテーマに、ふだんの日々をもっとおもしろく、特別な日をもっとおしゃれに盛り上げる、「遊び心」のある雑貨をセレクトしている「Adam et Ropé Le Magasin(アダム エ ロペ ル マガザン)」と、世界中の一見奇妙な形の建物や文化を撮り続け、度々TV番組でも取り上げられている写真家・佐藤健寿(さとうけんじ)氏とのコラボレーション企画「Trip to Wonderland 〜奇界遺産〜」をお送りします。
本日はお集まりいただきありがとうございます。フォトグラファーの佐藤です。 そもそも今回このイベントで話をすることになったのは、僕の『奇界遺産』とJUNのブランド『アダム エ ロぺ ル マガザン』とでコラボをしませんか?という不思議なオファーがあったからです(笑)。オリジナルの『写ルンです』や、Tシャツ、トートバッグをコラボレーションで作りました。イラストは、左がガスマスクをつけている僕、右がブランドのオフィシャルキャラクター、マガザンマンです。加えてオリジナルのブックレットを作っています。これは『ル マガザン』の店舗から日帰りで行くことが可能な、日本の『奇界遺産』のようなおもしろい場所を紹介しているもので、すごくよくできてしまったので(笑)、ぜひお店で入手してください。
僕はもともと美術大学で写真を専攻していまして、アメリカに美術留学しながら自分の撮影テーマを模索していたときに、ネバダ州にある『エリア51』というUFOの聖地のようなところへ撮影に行ってみたんです。その翌年には、雪男を探しにヒマラヤへ行ってみたり。そういった撮影テーマと取り組んでいるうちに、今のようなスタイルで作品を作るようになりました。 最近撮影して感動したものは「ゴキブリ」の像です。奈良から車で3時間くらい行ったところの林泉寺というお寺に、一体だけ奇妙な像が立っているということで、撮影に行きました。 ゴキブリの造形に機械が合体しているこの像には、ちゃんと『護鬼佛理天(ごきぶりてん)』という名前があります。このお寺の住職さんのところに、ある害虫駆除会社の社長さんから「これまで何億匹というゴキブリを葬ってきたので、供養をしたい」と話があったそう。それで、女子美大の天野裕夫さんという前衛彫刻家の方と3人で話し合い、「我々人類こそが、むしろゴキブリの世界にとっての害虫じゃないか」というコンセプトが奇跡的に一致して、この奇妙な像が生まれたそうです。 もちろん住職さんたちは、この像を非常に真面目に作っています。でも黒光りする大きなゴキブリに歯車が組み込まれてる像は、見方によっては、やはりかなり奇妙です。僕がおもしろいなと思うのはそういった差異で、「視点を変えることによって物事が奇妙に見えてくる」という部分なのです。
西アフリカ・ガーナのテシエという小さい村の工房も、印象深い撮影場所でした。一見してなんだかわからない、けっこう大きなサイズのオブジェがたくさんあって。魚型や犬型、ハンマーや映写機、アクエリアスの缶だの、カメラ、ガソリン車、エビ、魚、ナイキのスニーカー型まで。かなり雑多なモチーフが並んでいるのですが、実はこれらはすべて「棺桶」です。 この棺桶はテシエ村独特の風習で、1960年代ごろ始まったそう。村の大工さんのお母さんが「死ぬまでに一回飛行機に乗ってみたかった」という言葉を残して亡くなった。それなら乗せてあげようと、飛行機型の棺桶を作ってそれをみんなで運んで弔ったそうです。それが評判になって、様々な依頼が来るようになり、『オーダーメイド棺桶』っていうこの村独特の文化が生まれたんですね。 文化という部分では、僕は世界の様々な国の『死』にまつわる風習をいろいろと見てきました。なぜそこに興味を持つかというと、死や葬儀には、その場所の文化や地域性、宗教性などが、最も凝縮されていると思うからなのです。
さらに死にまつわる奇習で、台湾に行った時のことを紹介します。台湾は日本からも近いですし、街を歩いていても日本に居るような錯覚を起こすほどで、文化的な違いもさほど感じないのですが、中国本土に比べてもかなり道教への信仰が強いのは実感します。道教は現世利益を追求するので、お寺もものすごく豪華にしていて、派手にするほど縁起がいいとされるわけなんです。台湾のお盆に日本と違うところは、お供えの量がものすごいこと。豚を丸ごと一頭つぶした丸焼きをたくさん並べたり…。一番おもしろいのは、お葬式の時もそうなのですが、お盆で移動式のショーが開催されるんです。お寺の住職さんがステージ付きの車とプロのダンサーを呼んで、まずカラオケ大会が行われる(笑)。そのあとに、ポールダンスが披露されるんです。地元のおばあちゃんとかがお線香を持ってお参りしている横で…(笑)。ダンサーの彼女たちに聞くと「神様にも、亡くなった人たちにも喜んでもらいたい」というわりと素直な感じで、地元の人もみんな立ち止まって見ているし、ダンサーは客席に降りて行ってみんなと握手してサービスしたりした後、お寺に入って行って、神様にもポールダンスを捧げる。音楽もガンガンのEDMみたいなものが流れていて、すごくおもしろい空間でした。
埼玉県・秩父の北にある、小さな村でおこなわれる『ジャランポン祭り』に行ってきました。これは神社などではなく、公民館でやるお祭り。参加者はみんな頭に三角頭巾を巻いて、全員が死んだ人になるのです。中でも厄年の男性を立て、この人の生前葬というか、仮想の死の儀式をやるんですね。この主役は何をやるかというと、棺桶に入ってひたすらお酒を飲んで、テキトウに酔っ払いながら寝ちゃう(笑)。住職さんも飲んでいて、テキトウにお経なんかを唱えながら(笑)お説教をします。何を話すのかなと思ったら、意外にも中東情勢について話したりしていて(笑)。「それでもここではこういう平和な状態がある、こういった行事が受け継がれてゆけばいいですね」という感じで終わって、最後に主役を神社に運ぶんです。ちなみに『ジャランポン』というのは、ドラと太鼓の音から来ているとも言われていますし、いいかげんの『ちゃらんぽらん』から来ているとも言われています。こんなゆるい感じなのですが、実は江戸時代から続いているお祭り。その昔、疫病が発生してかなりの人が亡くなってしまい、仕方なく生贄を出したことから派生しているとも言われているそうです。日本でも近世以降、まだそういった生贄の風習が残っていたとも言われています。
武蔵野美術大学卒。フォトグラファー。世界各地の“奇妙なもの”を対象に、博物学的・美学的視点から撮影・執筆。写真集『奇界遺産』『奇界遺産2』(エクスナレッジ)は異例のベストセラーに。 著書に『世界の廃墟』(飛鳥新社)、『空飛ぶ円盤が墜落した町へ』『ヒマラヤに雪男を探す』『諸星大二郎 マッドメンの世界』(河出書房新社)など。 近刊は米デジタルグローブ社と共同制作した、日本初の人工衛星写真集『SATELLITE』(朝日新聞出版社)、『奇界紀行』(角川学芸出版)、『TRANSIT 佐藤健寿特別編集号~美しき世界の不思議~』(講談社)など。NHKラジオ第1「ラジオアドベンチャー奇界遺産」、テレビ朝日「タモリ倶楽部」、TBS系「クレイジージャーニー」、NHK「ニッポンのジレンマ」ほかテレビ・ラジオ・雑誌への出演歴多数。トヨタ・エスティマの「Sense of Wonder」キャンペーンの監修など幅広く活動中。