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知るは美味しい。食いしん坊入門 植野広生 編集長YOU ARE CULTURE SCHOOL.Vol.6 

2017.12.22
YAC SCHOOL

現代のカルチャーを牽引する気鋭のクリエイターが、刺激的なレクチャーを繰り広げるトークイベント「YOU ARE CULTURE SCHOOL」。第6回目は、月刊誌『dancyu(ダンチュウ)』の編集長・植野広生(うえのこうせい)氏が講師として登場。「知るは美味しい。食いしん坊入門」と題してお送りします。

 今回の「YOU ARE CULTURE SCHOOL」では、特別にウェイティングバーも設置。JUNグループが所有するワイナリーで丁寧に作られる日本ワイン『Chateau Jun』や、『SALON adam et ropé』のフード & ドリンクも振舞われました。まだリリース前の、今年度の新しいワイン『甲州』や、JUNのスタッフ自らが手植えしているお米『雪ほたか』を使ったお菓子なども楽しめた、和やかな会となりました。



1:雑誌『dancyu』は、食いしん坊のためにある。

 こんにちは、『dancyu』という雑誌で編集長を務めております、植野です。先月55歳の誕生日を迎えました。ちなみにその日は会社で徹夜で仕事をしておりました(笑)。最初にちょっと僕のことをお話しますが、最近少し誤解されてるのかな、と思うことがあります。先日もテレビの収録があったのですが、番組のディレクターの方が、“食のエキスパートとして、ご意見をお願いします。あと、お笑いもお願いますね”って言うんです(笑)。“え? 僕はお笑い担当なんですか?”という感じ。錚々たるお笑い芸人さんがいらっしゃる番組なのに…。もちろん、しっかりとダジャレをぶっこみましたけどね(笑)。

 そんなふうにテレビなどに出演させていただく機会もあって、すっかりお笑い担当と化しているのですが、本職は編集者。僕が編集長を務めている『dancyu』という雑誌は1990年にスタートして、もう27年です。僕は以前はぜんぜん違う会社で、ぜんぜん違う財テク誌を作っていましたが、その頃からこっそり『dancyu』で食のことについて書かせていただいていました。創刊1年目くらいからライターをしていたので、実は『dancyu』とは長いおつきあいなんです。当時は勤め先には内緒なので、ペンネームを『大石勝太』としていました。“おいしかった”っていう、これもまたシャレなんですけど(笑)。

 僕が初めて編集長として作ったのが今年の8月号。“美味東京”というコピーの、美味しそうなうなぎが表紙なんですが、発売前に『情熱大陸』という番組に密着していただいこともあって、これは売れました! 『dancyu』では、カメラマンさんにも“おしゃれじゃなくてもいいから、食べたくなるように、美味しそうに撮ってください”と常にお願いしています。ファッション系だったり、デザイン系の雑誌だったらこういう撮り方はしないかもしれないのですが、『dancyu』は食雑誌であり、食いしん坊雑誌。わーっ、食べたい! って、紙だとわかっていても、思わず表紙にお箸を突っ込んでしまいたくなるようにしたいんです(笑)。ちなみにスマホなどで料理の写真を撮る場合は、自分が食べる時の目線で撮るのがおすすめです。真上から撮ったりするとカッコいいのですが、美味しそうに撮影するには、目線からが一番。また撮る場合は、光は後ろから当てた方が美味しそうに見えます。後ろから外光などの強めの光をあてて、手前に白い紙を置いてちょっと反射させ、柔らかい光を前から当てるようにすると、『dancyu』のような写真が撮れますよ。

2:人より美味しく食べる技。それは、お店の予約時から始まる。

 今日は『食いしん坊入門』というタイトルなのですが、食いしん坊とはそもそも何か? 大げさに定義するほどのこともないのですが、僕が勝手に考える食いしん坊とは、300円の立ち食いそばも30000円のフレンチも、同じように楽しめる人。立ち食いそばをいかにしておいしく食べるかということを真剣に考え、またある時は、フレンチの最高級の食材の美味しさをきちんと味わって感動できる人。どんなところでも、どんなものでも、“食べることを楽しめる”人こそが、食いしん坊だと思うんです。僕の古い友人の小山薫堂さんはまさしくそういったタイプの食いしん坊で、200円の立ち食いコロッケを真剣に味わっていたりする(笑)。この『dancyu』という雑誌も、食いしん坊に、いかに喜んでもらえるかを考えて作っています。

 僕自身も、同じお店で同じお金を払っている隣の人と比べたとしたら、絶対にその人よりも美味しく味わう、という自信があります。例えば初めてのお店で予約をするときに、「お苦手なものはありますか?」などと聞かれたりしますよね。そうしたら僕は「愛のない料理が苦手です」って言うんです。今、会場の皆さん、半分は笑って、半分はちょっと嫌な顔しましたね?(笑) 実際にお店のほうの反応も同じで、「わかりました。それでは精一杯愛を込めて作らせていただきます」って言ってくれるお店と、「はあぁ?」っていうお店と、はっきり二分されます(笑)。といってもこれはイタズラで言ってるわけではなく、人よりも美味しく味わうための布石。こういうヘンなことを言うと、お店にとっては印象に残るんです。“愛のない料理”と言うことによって、実は予約を取るときから、お店との関係が始まっている。行ったことのないお店と、すでに繋がっているわけなんです。だから実際にお店に行くと、“あのヘンなやつ来たぞ、愛野郎だ”みたいになるわけですよ(笑)。

 そして愛を追求したヘンな客である僕は、たとえお任せコースであっても、まず、お店のご主人と会話をします。メインはどれですかとか、今日しか食べられないものは入っていますかとか…。会話を楽しんだ時点で、もう隣の人よりは美味しく味わえているわけです。もしかすると、それでご主人が“こいつは食に関心があるんだな”ってちょっとでも思ってくれて、ちょっとだけ気合の入ったものが出てくるかもしれない。出てこないかもしれないけれども(笑)。実際に料理人の多くは、食材や調理法について直接聞かれたり、反応があると嬉しいそうです。

 ただし最近、お客さんとお店との関係性に、ちょっと思うところがあります。例えばお客さんは、なんでも“美味しい、美味しい”って褒めすぎるような気がします。もちろん美味しいものは美味しいって言えばよいけれど、それほどでもないものは、黙っていればいいんじゃないかと思う。それなのに、お店との関係を悪くしたくないのか、やたらに褒める人が多い。本当に美味しいものだけを褒めることで、お店もよくなっていくんじゃないかな、と思うんです。またお店のほうも、少し説明が過剰かな、と思う時があります。例えばお寿司屋さんの側が「大間のマグロです」って言って出したりすることがある。そうするとお客さんも「あ、大間のマグロ、美味しいですよね!」って言ってしまう。食べてもいないのに“美味しい”って、なんだかそこで終わってしまってるような感じがします。個人的には、黙って出してもらって、美味しかったら「このマグロ美味しいですね、どこのですか?」っていう感じで、お店との会話が成り立つのが、いい関係なんじゃないかな、と感じています。

3:普通のナポリタンも3倍美味しく! 食いしん坊はこう食す。

 ここで、食いしん坊ならではの食べ方の話をしますね。これをあんまり言うと、面倒くさいヤツって言われるんですが(笑)、隣の人よりも美味しく食べるために、僕なりに工夫していることがあります。

 例えば天ぷらは、最近塩で食べさせるところが多いですよね。みなさん普通に、お箸で天ぷらを取って、塩を下にちょっとつけて、口に持って行くと思います。でも僕は、塩を下につけないて、上からパラッと軽く振って食べます。そうすることで先に衣と食材を味わえて、あとから塩気が追いかけてくる。塩を下につけると、いきなり塩の味が来てしまいますよね。とんかつなんかもいきなりソースをかけたら、衣がびしょびしょになってしまう。肉の断面を上にして、そこにちょっと塩やソースをかけて食べるだけでも、ぜんぜん味わいが変わります。

 工夫がヒートアップした例として、ナポリタンの食べ方があります。これは以前テレビの番組で紹介したのですが、ナポリタンを食べる時は、まず、全体を愛でます。それから麺だけをちょっと食べて、くた感やプリ感を確かめます。この麺の状態やケチャップの状態で全体のバランスを確かめて、どう攻めるかを考える(笑)。

 それからつぎに、“インサイド”で食べます。これは、フォークにあらかじめ粉チーズを振ってから、麺を巻いて食べるんです(笑)。そうすると、ナポリタンを食べた後を追って、最後にふわっとチーズが香る。次に“アウトサイド”。これは、フォークで巻いた麺に、あとからチーズをかける(笑)。タバスコでも同じように、インサイド、アウトサイドで楽しみます。これはナポリタンが発明されて100年以上経つと思いますが、僕が初めて開発したオリジナルの技です(笑)。せっかくナポリタンが一山あるのだから、食いしん坊たるもの、いろんな食べ方をして最大限に楽しみたい。本当に“インサイド“やってみてください。違う味になって、隣の人と比べて3倍は楽しめます!

 さらにナポリタンは、冷たいコールスローを巻き込んで食べると、すごく美味しい。暖かさと冷たさ、柔らかさとシャキシャキ感が口の中で一体となって、香りと変化が出るんです。これは牛丼の『吉野家』で、暖かい牛丼と冷たいコールスローサラダを混ぜて食べた時に思いついたんですが(笑)。でも真面目な話、これからの料理は、1.香り、2.テクスチャー(食感)、3.温度、の3つがポイントになるんじゃないかと思っていて。この3つを料理人がどういう風に出すか、そして食べる側はどうやって楽しむのか。これが今後の料理界のキーワードになるのではないか、と密かに思っています。

4:いい感じに、ワインを自然に楽しむ日本人が増えてきた。

 美味しいお店に出会うためのコツは? という質問を会場からいただきましたが、僕は基本的に情報サイトなどは見ないので、人からの口コミ情報を大切にします。ただし、口コミにも熱量があると思っていて。なんとなく“あの店に行ったけど美味しかったよ”というだけでは、それほどカロリー(熱量)の高い口コミとは言えない。僕はよく築地に用もないのに遊びに行って、仲卸さんのところでうだうだしているんですが(笑)、そうすると仲卸さんから「今度新しくできた◯◯っていうお店の若い人が、毎日通ってきてすごく勉強熱心なんだよー。頑張ってもらいたいなぁ」「応援したいんだ」というような、カロリーの高い情報をもらえたりします。そういった熱量を大切にしていますね。あとは『dancyu』を見て情報を得ます(笑)。

 あと最後に、本日みなさんに楽しんでいただいた『Chateau Jun』のワインは、僕らが編集した『日本ワイン99本』(プレジデントムック)という本でも紹介しています。この本は、全国にある日本ワインのワイナリーを訪ねたデータブックであり、それぞれのワインに合わせたい料理も掲載。一冊で日本ワインのことがまるっとわかる、なかなか便利な本です。ワインは今、自然派のものがすごく人気ですが、個人的には、飲み方も“自然”になってきていい感じだな、と思っています。今までは「これは◯◯だから美味しい」という感じで、頭で考えて飲んでいる人が多かったように思うのですが、最近はみんなが自然な感覚で飲むようになってきて。自分なりの美味しさを、ごく当たり前に見つけていたりしますよね。初めて本当の意味で、日本にワインが馴染んできたのかな、と感じています。

あなたを作ったカルチャーは何ですか?

「食いしん坊としての探究心」

「食いしん坊」とはどんな人でしょうか? 食べることが好きなのはもちろん、300円の立ち食い蕎麦も3万円のフレンチも、同じように楽しめる人のことだと思います。それは味や食材のことだけでなく、シチュエーションや雰囲気、食べ方、ちょっとした知識、そして一緒に食事をする相手によって、楽しみを広げられる人、幅広く面白がれる人のこと。
自分もそうなりたい、と思ったわけではないのですが、ふと気づけば「食いしん坊」の一人になっていました。美味しいものを食べたいというストレートな欲求はもちろん、「同じお金を払うなら、隣の客より少しでも美味しく、楽しく食べたい」と常に思っています。だから、料理人と会話をして“美味しい話”を引き出したり、食べ方をあれこれ考えて少しでも美味しく食べようとします。
でも、皿の中だけに意識を集中させてり、食の話だけをしながら食事をするのは嫌なので、音楽、スポーツ、アート……いろいろな話をします。そんな幅広い会話と食を楽しめる人と食事に行きます。目指すのは「グルメ」ではなく「食いしん坊」。そのための真剣でゆるい探求心が僕をつくっているカルチャーです。

植野広生 編集長

食の雑誌『dancyu』編集長。1962年生まれ。大学入学のため上京した直後から銀座のグランドキャバレーでアルバイトを始める。その後、鰻屋や珈琲屋など多数の飲食店などでアルバイトを経験。卒業後は新聞記者や、経済誌の編集担当などを経て、2001年に『dancyu』を発行するプレジデント社へ入社。2017年4月、編集長に就任。

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