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FEATURE

根底にあるのは、いつも好奇心 佐藤健寿 写真家YOU ARE CULTURE SCHOOL. Vol.4 

2017.07.14
SCHOOL

毎回カルチャーの牽引者たちをゲストに招き、刺激的なレクチャーを繰り広げるトークイベント「YOU ARE CULTURE SCHOOL.」。 第四回目は、「PLAY MORE!~毎日をもっと遊ぼう!~」をテーマに、ふだんの日々をもっとおもしろく、特別な日をもっとおしゃれに盛り上げる、「遊び心」のある雑貨をセレクトしている「Adam et Ropé Le Magasin(アダム エ ロペ ル マガザン)」と、世界中の一見奇妙な形の建物や文化を撮り続け、度々TV番組でも取り上げられている写真家・佐藤健寿(さとうけんじ)氏とのコラボレーション企画「Trip to Wonderland 〜奇界遺産〜」をお送りします。

1:『奇界遺産』と『アダム エ ロぺ ル マガザン』のコラボが実現

本日はお集まりいただきありがとうございます。フォトグラファーの佐藤です。 そもそも今回このイベントで話をすることになったのは、僕の『奇界遺産』とJUNのブランド『アダム エ ロぺ ル マガザン』とでコラボをしませんか?という不思議なオファーがあったからです(笑)。オリジナルの『写ルンです』や、Tシャツ、トートバッグをコラボレーションで作りました。イラストは、左がガスマスクをつけている僕、右がブランドのオフィシャルキャラクター、マガザンマンです。加えてオリジナルのブックレットを作っています。これは『ル マガザン』の店舗から日帰りで行くことが可能な、日本の『奇界遺産』のようなおもしろい場所を紹介しているもので、すごくよくできてしまったので(笑)、ぜひお店で入手してください。

2:自己紹介と、奇妙なゴキブリ像

僕はもともと美術大学で写真を専攻していまして、アメリカに美術留学しながら自分の撮影テーマを模索していたときに、ネバダ州にある『エリア51』というUFOの聖地のようなところへ撮影に行ってみたんです。その翌年には、雪男を探しにヒマラヤへ行ってみたり。そういった撮影テーマと取り組んでいるうちに、今のようなスタイルで作品を作るようになりました。 最近撮影して感動したものは「ゴキブリ」の像です。奈良から車で3時間くらい行ったところの林泉寺というお寺に、一体だけ奇妙な像が立っているということで、撮影に行きました。 ゴキブリの造形に機械が合体しているこの像には、ちゃんと『護鬼佛理天(ごきぶりてん)』という名前があります。このお寺の住職さんのところに、ある害虫駆除会社の社長さんから「これまで何億匹というゴキブリを葬ってきたので、供養をしたい」と話があったそう。それで、女子美大の天野裕夫さんという前衛彫刻家の方と3人で話し合い、「我々人類こそが、むしろゴキブリの世界にとっての害虫じゃないか」というコンセプトが奇跡的に一致して、この奇妙な像が生まれたそうです。 もちろん住職さんたちは、この像を非常に真面目に作っています。でも黒光りする大きなゴキブリに歯車が組み込まれてる像は、見方によっては、やはりかなり奇妙です。僕がおもしろいなと思うのはそういった差異で、「視点を変えることによって物事が奇妙に見えてくる」という部分なのです。

3:ガーナ・テシエ村のデザイナーズ棺

西アフリカ・ガーナのテシエという小さい村の工房も、印象深い撮影場所でした。一見してなんだかわからない、けっこう大きなサイズのオブジェがたくさんあって。魚型や犬型、ハンマーや映写機、アクエリアスの缶だの、カメラ、ガソリン車、エビ、魚、ナイキのスニーカー型まで。かなり雑多なモチーフが並んでいるのですが、実はこれらはすべて「棺桶」です。 この棺桶はテシエ村独特の風習で、1960年代ごろ始まったそう。村の大工さんのお母さんが「死ぬまでに一回飛行機に乗ってみたかった」という言葉を残して亡くなった。それなら乗せてあげようと、飛行機型の棺桶を作ってそれをみんなで運んで弔ったそうです。それが評判になって、様々な依頼が来るようになり、『オーダーメイド棺桶』っていうこの村独特の文化が生まれたんですね。 文化という部分では、僕は世界の様々な国の『死』にまつわる風習をいろいろと見てきました。なぜそこに興味を持つかというと、死や葬儀には、その場所の文化や地域性、宗教性などが、最も凝縮されていると思うからなのです。

4:台湾・死にまつわる明るい奇習

さらに死にまつわる奇習で、台湾に行った時のことを紹介します。台湾は日本からも近いですし、街を歩いていても日本に居るような錯覚を起こすほどで、文化的な違いもさほど感じないのですが、中国本土に比べてもかなり道教への信仰が強いのは実感します。道教は現世利益を追求するので、お寺もものすごく豪華にしていて、派手にするほど縁起がいいとされるわけなんです。台湾のお盆に日本と違うところは、お供えの量がものすごいこと。豚を丸ごと一頭つぶした丸焼きをたくさん並べたり…。一番おもしろいのは、お葬式の時もそうなのですが、お盆で移動式のショーが開催されるんです。お寺の住職さんがステージ付きの車とプロのダンサーを呼んで、まずカラオケ大会が行われる(笑)。そのあとに、ポールダンスが披露されるんです。地元のおばあちゃんとかがお線香を持ってお参りしている横で…(笑)。ダンサーの彼女たちに聞くと「神様にも、亡くなった人たちにも喜んでもらいたい」というわりと素直な感じで、地元の人もみんな立ち止まって見ているし、ダンサーは客席に降りて行ってみんなと握手してサービスしたりした後、お寺に入って行って、神様にもポールダンスを捧げる。音楽もガンガンのEDMみたいなものが流れていて、すごくおもしろい空間でした。

5:日本にも変わった死の風習

埼玉県・秩父の北にある、小さな村でおこなわれる『ジャランポン祭り』に行ってきました。これは神社などではなく、公民館でやるお祭り。参加者はみんな頭に三角頭巾を巻いて、全員が死んだ人になるのです。中でも厄年の男性を立て、この人の生前葬というか、仮想の死の儀式をやるんですね。この主役は何をやるかというと、棺桶に入ってひたすらお酒を飲んで、テキトウに酔っ払いながら寝ちゃう(笑)。住職さんも飲んでいて、テキトウにお経なんかを唱えながら(笑)お説教をします。何を話すのかなと思ったら、意外にも中東情勢について話したりしていて(笑)。「それでもここではこういう平和な状態がある、こういった行事が受け継がれてゆけばいいですね」という感じで終わって、最後に主役を神社に運ぶんです。ちなみに『ジャランポン』というのは、ドラと太鼓の音から来ているとも言われていますし、いいかげんの『ちゃらんぽらん』から来ているとも言われています。こんなゆるい感じなのですが、実は江戸時代から続いているお祭り。その昔、疫病が発生してかなりの人が亡くなってしまい、仕方なく生贄を出したことから派生しているとも言われているそうです。日本でも近世以降、まだそういった生贄の風習が残っていたとも言われています。


6:極北の地で見た、自然淘汰の原理

先日、ロシアのネネツ族という部族のところへ行ってきました。彼らが住むサレハルドという町は、モスクワからさらに北上した北緯66度の線上に位置し、一般に北極圏内と呼ばれているような場所です。気温はマイナス50度にもなり、永久凍土からは、よくマンモスのミイラが発見されたりしています。 ここへはもう5年越しで行きたいと思っていたのですが、なかなか実現しなかった。冬はパウダー状の新雪が1〜2メートルも積もるので身動きが取れなくなり、春になって雪が固まってこないと行けないんです。しかも装甲車みたいな車でないと進めない。またここはロシアの自治区なので以前は許可制で、入ること自体が困難でした。さらに、永久凍土から発見されたトナカイを勝手に食べた子供が炭疽菌に侵され、病がネネツ族に広まったことで、そのエリアに入るのが制限されていた時期もありました。今年の4月に、満を持して実現させることができました。 サレハルドの町から北に進んで、もう家もなくなってきて北極海の手前まで進んだところに、このネネツ族が住んでいます。彼らは寒さに強い牧羊犬・ライカ犬と、トナカイを1000~2000頭も連れて、遊牧民として暮らしています。2家族くらいが一緒になり、チウムという移動式住居を建て、そこで放牧をするんです。トナカイがその辺りの草を食べつくしたら、また移動するという生活を送っています。隣同士のチウムは、トナカイの群れが混ざらないように10kmくらい離れています。 1週間に1回、ネネツ族はトナカイの群れを連れてきて捕食をします。それも投げ縄で捕まえるんですね。銃を使わないのは、傷をつけずにもっとも良い状態で捕まえるということもあるんですが、群れでいちばん弱くて遅い、捕まえやすい個体を取り除くことで、強い個体を残して繁殖させるという目的があります。自然淘汰の原理を具現化しているのが、この投げ縄なんです。 ところが逃げ惑うトナカイの中で、まれに人間の側に立ってぼうっと群れを見ているものもいるんです。彼らになぜこれを捕まえないのかと聞いたら「こいつらは賢いから、逃げたら捕まることがわかっている。だからこいつらは残すんだ」って言うんですね。これも自然淘汰の一部なんだなと思いました。 あとおもしろかったのは、日本人はもちろん、外国人もほぼ初めて見たというようなネネツ族なのですが、そのわりにはあっちから撮れ、こっちから撮れ、と指示がうるさい(笑)。そういう人って実は現場によくいたりして、的外れな、こちらの意図しないアングルを指示してくることが多いのですが、ここの人の指示は非常に的確で、なぜかディレクションが上手だったんです(笑)。それでいい絵が撮れました。


7:最も心に残っている場所とは?

ロケットの打ち上げという場は、個人的にすごく面白いと思います。日本でも種子島ならけっこう気軽に行けますし。僕はバイコヌール宇宙基地でのソユーズの打ち上げに何度か行っていますが、ロケットの打ち上げって、人間がやることのなかでいちばん奇妙なことのような気がしていて。だって、他の星に行こうとしているんですから、相当おかしなことですよね(笑)。あれだけのエネルギーが動く場所は、そう多くはないわけですし、人によっては泣きだしてしまうほど。それだけの感動的な光景なのだと思います。 ヒマラヤもやはり、すごい場所です。僕は雪男を探しに行ったのですが、雪男は一般的には「未確認生物」とかUMAと言われますが、現地では要するに神様のことなんです。日本にいて本を読んで「雪男は神様」と書いてあっても現実味はないし、現地の迷信だろ? などという感じなのですが、実際に標高8000m級の山を見たり、それに登ったりしてみると、「人智を超えた存在がそこにある」のは当たり前だな、というふうに認識が変わる。陳腐な言い方だと”自然の偉大さ”というようなことになってしまうのかもしれませんが、やはり「世界で一番高い場所」なんですよね。 個人的にはあまりこういう限定的なことを言いたくはないですし、そんな場所はそう多くはないと思っているのですが、ヒマラヤに行った人生と行かない人生では、やっぱりちょっと違うような気がしています。本日はありがとうございました。


あなたを作ったカルチャーは何ですか?

「異質なものに対する好奇心」 世界の奇妙な何かというテーマで、廃墟でも少数民族でも奇景でも祭りでもなんでも撮影しています。一見バラバラのテーマですが、自分のこれまでの行動の中で、唯一共通するものは多分、異質なものに対する、「見たい」「聞きたい」「知りたい」という単純な「好奇心」だけです。 「好奇心」はもともと人間の根源的な欲求の一つだと思います。あらゆるものごとは、本来異質なもの同士の衝突から起こります。けれど日本のように、東から西まで情報が行き渡り文化が均一化された場所では、異文化的な衝突もないぶん「新しい何か」が発生しづらくなっている。どこに行ってもコンビニがあって、同じチェーンのレストランがあって、同じものがいつでも見られたり、食べられるような場所は世界中他にありません。これは経済的には素晴らしいことですが、そういった環境で当たり前に生活していると、気がつかないうちに近視眼的になってしまうこともある。実は情報が多い都会に住んでいる人は特にその傾向が強くて、気づかないうちに自分が接するごく狭い範囲で起こっていることが世界で、その常識がすべてに思えてきてしまう。だから目の前にあるものが全てではないという、ごく当たり前のことを知るために、私は色々と旅をしている気もします。 例えば私たちにとってロシアの極北で遊牧する部族は奇妙に見えるかもしれませんが、彼らにとっては、都会の狭い家で暮らす我々がとても奇妙に見える。そういう感覚は言われれば頭ではわかっても、実際に行って感じないと本当の意味ではわからないことなんです。そしてそこで見えてくる風景や文化、異質な何かに対する驚きが、自分の知識や常識を壊して、世界に対する感覚をリセットしてくれる。だから僕を作っているカルチャーとは「異質なものに対する好奇心」そのものなんだろうと思います。

佐藤健寿 写真家

武蔵野美術大学卒。フォトグラファー。世界各地の“奇妙なもの”を対象に、博物学的・美学的視点から撮影・執筆。写真集『奇界遺産』『奇界遺産2』(エクスナレッジ)は異例のベストセラーに。 著書に『世界の廃墟』(飛鳥新社)、『空飛ぶ円盤が墜落した町へ』『ヒマラヤに雪男を探す』『諸星大二郎 マッドメンの世界』(河出書房新社)など。 近刊は米デジタルグローブ社と共同制作した、日本初の人工衛星写真集『SATELLITE』(朝日新聞出版社)、『奇界紀行』(角川学芸出版)、『TRANSIT 佐藤健寿特別編集号~美しき世界の不思議~』(講談社)など。NHKラジオ第1「ラジオアドベンチャー奇界遺産」、テレビ朝日「タモリ倶楽部」、TBS系「クレイジージャーニー」、NHK「ニッポンのジレンマ」ほかテレビ・ラジオ・雑誌への出演歴多数。トヨタ・エスティマの「Sense of Wonder」キャンペーンの監修など幅広く活動中。

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